対馬丸事件について
出航
昭和19 (1944)年8月21日
早朝から那覇港の埠頭に集められた子どもたちは
ぎらぎらと照りつける真夏の太陽のもと
身を隠す場所もなく、ひたすら乗船を待ちました。
長崎に向け出航する対馬丸
夕方になってようやく乗船できることになると、那覇港の突端にある水上警察署の岸壁から小型の船に乗り移り沖合に停泊する対馬丸へと向かいました。
絶壁のように迫る船体の高さに圧倒された子どもたちでしたが甲板までつり梯子で上がると大きな船に乗った安心感からかまたはしゃぎ始めました。

上原 清 著『対馬丸沈む』より
対馬丸はどんな船だったのか
対馬丸は、昭和19(1944)年8月16日中国・上海から日本の兵隊を乗せて8月19日に那覇港に着きました。
対馬丸は軍艦でなく建造から30年もたった老朽貨物船でした。兵隊を下ろして空になった船に、今度は疎開者を乗せて本土へ運んだのでした。
対馬丸には那覇市の8つの国民学校生徒をはじめ、1,661人が乗船していたといわれています。

対馬丸
軍艦に守られて出航
海が危険であることをそれとなく知っていた親たちにとって、 子どもを安全に渡航させるためには強い軍艦であることが安全だと信じ、それを望んでいました。
しかし当日那覇港に停泊していたのは、対馬丸をはじめとする貨物船3隻と2隻の護衛艦。親たちは不安な気持ちで5隻の船団を見送ったのです。

貨物船3隻と護衛艦2隻
航海
蒸し風呂のような船倉
窓ひとつない換気のよくない船倉の中は船独特のにおいと汗だくの学童たちの体臭とで、蒸し風呂のような暑さでした。
船倉に大きな2段の棚が作られていました。どこもぎっしりと人でうまり蒸し暑く、とても眠れるような状態ではありませんでした。
船長から勝手な行動をとってはいけないなどいくつか注意があり、 救命胴衣は肌身離さず着けていることを命じられました。
台風が近づいていたためか波が高く、船酔いする子どもも大勢いました。

つめ込まれた乗船者たち

対馬丸船倉の二段ベッド
追跡されていた対馬丸
長崎に向け出航した5隻の船団。実は、アメリカの潜水艦ボーフィン号は、対馬丸が上海を出発し那覇港に入る直前から攻撃の対象としてとらえ、22日も早朝から追跡を再開していました。

対馬丸の航路予想図
撃沈
対馬丸は那覇港を出航して27時間30分後、アメリカの潜水艦ボーフィン号によって撃沈されました。昭和19(1944)年8月22日夜10時12分ごろ、トカラ列島悪石島の北西約10キロ地点でのことです。
いまわしいその時が…
「ドーン」という爆発音と激しいゆれで多くの人たちは飛び起きました。
攻撃は、乗船者の多くが深い眠りに落ちていた夜中の出来事であり、10分足らずで沈没したためほとんどが船倉に取り残されました。また、脱出に成功した人も接近中だった台風の影響で、高波に呑まれ、多大な犠牲を出しました。

対馬丸の沈没地点
対馬丸を攻撃した潜水艦・ボーフィン号
対馬丸を攻撃したUSS Bowfin(ボーフィン)は、全長約95メートル、最大で24本の魚雷を搭載できる潜水艦です。
ニックネームは「真珠湾の復讐者」といわれ、ボーフィンは日本の艦船44隻を沈めたとされています。現在、ハワイ真珠湾のボーフィン記念公園内に実物が展示されています。

記念公園内に現存するボーフィン号
漂流・発見
真夜中の海に放り出された乗船者たちは目の前に浮かぶあらゆる物にすがりつき生き延びようとしました。
漂流者たちは、流された方向によって救出される時間と場所に差が生まれ凄惨な体験をすることになりました。
最初の発見者となったのは、佐世保大村飛行場所属のパイロット達でした。
近海で漁を行っていた開洋丸(鹿児島県山川町)と栄徳丸(宮城県日南市油津)に通信筒を落として知らせ、現場まで誘導・遭難者の救助をはじめました。

荒い海の上を筏(イカダ)で漂流

翌朝までの多くの人々が力つきました
救出と箝口令
救助された人々は鹿児島県の山川港や鹿児島港に運ばれ上陸しました。しかし、漁船で運びきれない人々もいました。救助船に気づかれなかった人々はさらに数日間にわたる漂流を強いられます。
かろうじて救出された人々は、警察や憲兵から「撃沈の事実は決して語ってはいけない」という「箝口令(かんこうれい)」がしかれ、さらなる苦しみがはじまるのです。
撃沈された現場から150kmの奄美大島へ漂流
撃沈された現場から150㎞奄美大生島へ漂流をへて対馬丸が沈没してから6日目の朝、奄美大島の大和村・宇検村・実久村(現在は瀬戸内町)の海岸線には多くの遺体が漂着しました。
一方、21名の生存者が保護され、宇検村の集会場などで村民による手厚い介護をうけました。

漂流者の辿り着いた場所
対馬丸事件に関する基礎データ
対馬丸事件が起きた当時、箝口令が敷かれていた背景もあり細部にわたる被害実態調査は行われませんでした。
以下の情報は、ご遺族への聞き取り調査等を経て集めたデータです。
対馬丸の乗船者
疎開者(学童集団疎開、一般疎開) | 1,661名 |
---|---|
船舶砲兵隊員 | 41名 |
合計 | 1,788名 |
対馬丸撃沈事件による犠牲者(氏名判別者数)
疎開者(学童集団疎開) | 784名 |
---|---|
疎開者(訓練・世話人) | 30名 |
疎開者(一般疎開) | 625名 |
船員 | 24名 |
船舶砲兵隊員 | 21名 |
合計 | 1,484名 (0才~15才は、1,040名) |
- 2024年8月22日までに名前が判明した数になります。
対馬丸撃沈事件の生存者数
これまでに発掘されている資料等から、およそ280名とされておりますが、船舶者1,788名と犠牲者1,484名が不確定な数字であるため原則は「不明」です。